人を大切にする会社に内部通報窓口は必要か

2024年5月4日の日経新聞電子版に「中小企業、「内部通報窓口なし」はリスクです」との記事が掲載されていました。

 公益通報者保護法では、社員300人超の企業は内部通報窓口の設置が義務化され、300人以下の企業も努力義務とされています。

 消費者庁が2024年2月末にまとめた従業員1万人の意識調査によれば、51人以上100人以下の企業で設置を知っていると答えた従業員は10%程度、25.6%は設置されていないと答え、残りは分からないという回答だったと記事には書かれています。なお、301人以上1000人以下の設置義務化された企業でも14.9%は設置されていないとの回答があったとのことで、これらの会社は違法状態となっているということです。

 確かに社員数が100名程度の会社であれば、社内に問題があればすぐに顕在化するので、わざわざ公益通報窓口を設置するまでの必要は無いと考えるのも無理なからぬところだと思います。特に人を大切にする経営者は、社員を信頼することもまた大事であると考えていらっしゃり、実践されていることから、よりその傾向があるかもしれません。

 以前にも書かせて頂きましたが、人は性悪であるはずもないものの、性善とも言い切れないところがあるのが実態ではないでしょうか。「性弱」説的な見方が必要なのだと思います。人を大切にすることと人を甘やかすこととは異なる、とよく人を大切にする経営学会の近藤宣之副会長がおっしゃっていらっしゃいますが、その通りだと思うのです。もし、社員の中に自分の弱さに負けてしまった人がいたら、その人の傷が早期に、小さい内に発見してあげ、修正してあげることもまた人を大切にすることだと思います。一方で、そのような状況は発見した社員が、その事実を会社に知らせようとする際に、当該社員のことを「告げ口」することになるのではないか等というような心理的負担を掛けさせないこともまた人を大切にすることになります。

 つまり、人を大切にする会社であるからこそ、「内部通報窓口」を設置しておくことが求められると思うのです。   (学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦

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