有給休暇の取得と人を大切にする経営

人材塾の塾生と坂本先生が執筆した「会社の『偏差値』」では、人を大切にする会社の「年次有給休暇の取得率は70%以上であり、時間単位の制度もある」と言われています。

 厚労省の調べによると、令和4年時点で年次有給休暇取得率の平均取得率は、58.6%であり、平成29年の49.4%という過半数以下の割合から年々比率が高くなってきていますが、まだ取得率70%には届きません。

 一方で時間単位取得制度についての厚労省の調査では、導入している会社は22%、導入していない会社は77.8%と圧倒的に導入がされていない状況にあります。時間単位制度の利用用途をみると、複数回答で、64.7%が「自身の病気などの通院」、32.7%が「家事・育児・子どもの行事参加」、26.1%が「銀行や役所等の手続」とされています。

 もちろん、人を大切にする経営を実践されている会社では、自身の病気による通院については、有給休暇を取らせるまでもなく、勤務時間として認めている会社もあれば、子どもの行事参加について特別休暇を設定しているところもあります。

 しかし例えば、役所などは、開いている時間が、会社の始業時間と終業時間とほぼ同じであったりするため、30分で済む要件のために、1日有給休暇や半日有給休暇を取らなければならないというのでは、社員にとっても不合理と言わざるを得ません。

 一方で、時間単位の有給休暇制度を導入していない理由としては、複数回答で、50.3%が「勤怠管理が煩雑になる」、46.8%が「すでに半日単位の年休取得制度がある」、39.3%が「給与計算が煩雑になる」、31.4%が「変形労働時間性等のため時間単位の代替要員確保困難」など、いずれも会社の事務処理上の自己都合が主な理由となっています。

 もともと労働基準法は、有給休暇は1日しっかり休暇を取ることが必要であることなどから時間単位の有給休暇について消極的でした。それでも、労働者からの時間単位の有給休暇の訴えにより、時間単位(ただし5日以内)の有給休暇をとることが「できる」とされました。つまり、法律的には時間単位の有給休暇制度を導入しなくても違反にはならないのです。

 しかし法律は、最低限の決まり事を定めたものであり、特に労働関係の法律について、経営者は法律を守っているからこれでいいんだ、というわけにはいきません。経営の実践は、いつも法律の先をいっているのです。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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