副業・兼業の善し悪し

厚労省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(最終改訂令和4年7月)による企業の対応の「基本的な考え方」には、「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。」と指摘されています。これは、そもそも労働時間以外の時間については、労働者は自由に何でもできることを原則とされているからです。その中には、労働時間外に他の職に就くことも含まれます。

もっとも、企業側からすれば、過剰な労働時間等による安全配慮義務、秘密情報が漏れるおそれがある秘密保持の必要性、競業を避けてもらいたいという要請等の観点から副業・兼業を認めたくないという要請が働きます。ある意味、これらの要請は理解できるところです。

この中の安全配慮義務との関係で、もっとも難しいのは、本業と副業との労働時間通算管理の問題があります。所定労働時間を基礎として、本業と副業との労働時間を通算し、時間外手当や時間外労働制限の問題に対応しなければならなくなります。その把握としても、本業、副業企業間で確認等をすることは困難であり、あくまで労働者からの告知により判断するしかないこととなります。これはとても使いにくい制度です。

独立行政法人労働政策研究・研修機構による「副業者の就業実態に関する調査」(2023年9月22日発表)によれば、2017年9月29日~同年10月3日まで、WEB調査では、有効回答数15万7,491人の内、本業のみは92.8%、副業をしている人は7.2%であり、その理由は、単一回答でみると、収入が少なく生活できないが23.1%、収入を増やしたいが32.5%、ローン等の負債があるが4.6%と収入面に関する理由が60%を超えています。これに対して、活躍の場を広げたいが7.9%、能力を活用・向上させたいが2.3%、他の分野の人と繋がりを持ちたいが3.5%といずれも1桁となっています。

収入面で社員が副業をしているのは、本業の経営者の責任です。社員だって、本来であれば、本業で必要な収入を得られるに越したことはありません。一方で、積極的な意志を持ち副業をする社員については、その意志を尊重するのも経営者の役割だと思います。

制度自体には「いい」「わるい」もありません。しかしその運用次第では、「わるい」制度になります。副業・兼業がいい制度となるかどうかは、本業の経営者の手腕にかかっているといってもいいと思います。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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