どちらが社員を大切にしているか

法律は、一応その規定の趣旨(目的)があるものの、規定自体は無色透明なので、その運用が重要となります。

 今回取り上げるのは年次有給休暇(年休)です。

 皆さんの会社の就業規則では、年休の翌年への繰り越しができるようになっていますでしょうか。多くの会社では就業規則で年休の翌年への繰り越しができるようにされているとお聞きしています。しかし、この年休の繰り越しは、法令上、明確な規定はありません。

 年休の翌年への繰り越しの根拠は、労働省の通達による解釈が元になっています。昭和22年12月15日の基発501号(基発とは、労働基準局長名で発する通達のこと)には次のような問答がなされています。

 問 有給休暇をその年度内に全部とらなかった場合、残りの休暇日数は権利放棄とみて差支えないのか、又は次年度に繰越してとり得るものであるか。

 答 法第115条の規定により2年の消滅時効が認められる。

ところがこの通達が出た後の昭和48年3月23日静岡地方裁判所判決は、年休の翌年への繰越しは認められない、と判示しました。その理由は、年休の制度は、当該年度において法定の日数を有給で現実に休むことを保障するものであって、たんに抽象的に年次有給休暇請求権を与え、その繰越しないし蓄積を認めるだけでは足りないものであるとし、年休の繰越しを認める立場は、抽象的な年休請求権を付与してその繰越しないし蓄積さえ認めれば、現実に有給で休ませることを一切しなくとも労基法39条の違反にならないと解せざるをえないが、これは不当であって採りえないというものです。

やむなく余ってしまった年休を翌年に繰り越せるのは一見すれば、社員のためのようにも見えます。一方で、翌年繰越せばいいだろうということで、本来、労働から離れて社員の心身の疲労回復(リフレッシュ)を図り、また今日ではゆとりある生活の実現に質するという目的で認められた有給制度の目的に反する場合もありえます。

どちらが社員を大切にしているかと言われると捉え方次第ということになります。

つまりこれは法律の規定自体の問題ではなく、法律の運用の問題です。

そこには、経営者の倫理的な感性が必要不可欠です。本来の法の目的にしたがって年休はその年度内に取得することを重視しつつ、やむなく有休を取れなかった社員に年休の繰越しを認めるというような姿勢をもつことが必要となります。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

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