人を大切にする経営と競業避止義務

競業避止とは、ご承知のとおり当社と類似する事業を行わないということを意味し、社員との採用時や退職時に誓約書等を提出されることがよくなされています。

 競業避止は、就業中は、労働契約に付随する義務として認められ、退職後は特別な契約や就業規則上の定めがある場合にのみ制限的に認められています。

 したがって、特に退職後の競業避止業務においては、その範囲、対象地域及び期間を制限するような裁判例が出ています。以前は、退職後3年や5年の期間競業避止とするというような取り決めがなされたりしていましたが、今は競業避止の必要性にもよりますが、退職後1年程度でも無効という判断も出されます。

会社としてもノウハウや顧客情報等の持ち出しなど営業秘密上のリスクを負っていますので、どうしても対象地域も対象期間も大きくしたいところですが、退職後は、社員には職業選択の自由も営業の自由もあり、それが重視されます。そのためこのように制限がなされます。

 そもそも、他業種への転職をする場合には競業のおそれはありませんし、現在の裁判例からすれば、競業避止義務の対象とはなりません。

一方で、社員が同業他社に転職をする場合というのは、当社に対して、何らかの不満がある場合や、先方の労働条件がいい場合ということになります。つまり、当社に魅力が無いと言わざるを得ません。

ということは、競業避止義務違反の事態が生じるということは、当社の人を大切にする経営に問題があるということになります。

競業避止が生じるか否かは、人を大切にする経営を実践し、成果が続いているかを確認するリトマス試験紙になるということです。

人を大切にする経営者は、退職者に対して、競業避止義務を問わないという勇気ある姿勢を貫いているのではないかと思います。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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