日本語は難しい~大切にする・優しくする

私たちが所属している学会は、「人を大切にする経営」学会です。社員を大切にする会社」が集まっています。ところが日常的な話の中で、時々「社員を大切にする会社」と同じような意味で「社員に優しい会社」という言い方を聞いたりします。

 ただ「優しい」と「大切」は必ずしも一致しないのではないかという疑問が生じます。「優しい」の対義語で使われる「厳しい」という言葉は、必ずしも「大切」という言葉と対義しません。例えば「社員を大切にする場合に、時に社員に対して厳しく接する場面もある」というように、厳しさと大切さは両立するのではないかと思ったりもします。

 新明解国語辞典によると、「優しい」には、①「顔つき・態度などから受ける印象が穏やかで好ましい感じだ」という意味と、②「相手に対する思いやりや心づかいが十分にある様子だ。」という意味と、少なくとも2つの意味があると書かれています。どうも私が、社員に優しい会社と聞くときに、少しモヤッとするのは、「優しい」という言葉に、①の意味である「穏やかで好ましい」というイメージが浮かぶからかもしれません。社員に優しい会社が、社員に穏やかで好ましい接し方をすることのみであるとすると、それは違うだろうなあと思うのです。

「社員に優しい会社」という言葉と使うとき、その意味は、「穏やかで好ましい」というニュアンスの意味としてではなく、「思いやりや心づかいが十分にある」という意味で使われていると思うと、納得できます。「社員に優しい会社」という場合、この②の意味で使っているのだと理解できます。

 一方で、同じ辞典で「大切」を引くと、①「使い過ぎたり、粗末に扱ったりしないよう気をつける様子」という意味と②「それを、何よりも重んずべきものだと判断する様子」いう2つの意味があると書かれています。①は最低限の取扱い方を、②は逆に最大限の尊重を表わしているように、意味に幅があることが分かります。もちろん、「人を大切にする経営」の「大切」とは、②の意味でしょう。

 このように言葉を見てくると、「人を大切にする会社」として、時に「社員を大切にする会社」といったり、時に「社員に優しい会社」と言ったりする理由が分かります。「人を大切にする会社」とは、この「優しさ」と「大切」の両者の意味を合わせて、「思いやりや心づかいを十分にもって、何よりも人を重んずべき」姿勢を表わしているのだと分かるのです。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

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