話しても分からない
2025年、法務部会初めての投稿です。皆様、今年もよろしくお願いします。
「話せば分かる」は、犬養毅首相(当時)のことばとして有名ですが、よくハラスメント研修等を行っていると、この「話せば分かる」という誤解が様々な労使間のトラブルに繋がっていると感じることが多いです。
私も、お客様に面談をする際に、よくこの「話す」ことの難しさを意識させられます。
言語が違う場合には、言語の理解力により話をしても伝わらないことは容易に想像できますが、同じ日本語を使い、日頃使っている単語で会話をしていても、実は相手に伝わっていないことがあります。このことを認知心理学では「スキーマ」として説明をしています。スキーマとは、経験に基づいて形成された知識や行動の枠組みを意味すると言われています。人それぞれのスキーマは、たとえ一緒に生活してきた親子でも違います。そして人は、相手の話を理解するときに、この枠組みの中で、それを理解しようとするそうです。つまり、話し手と聞き手のスキーマは、違っているので、同じ話でも話し手と聞き手で違う意味に受け止めてしまうことがあるというのです。
Aさん「あれ取ってきてくれる?」、Bさん「わかった。あれ取ってくるね」といった場合の「あれ」とは何か。これだけの情報では「あれ」は何だか分かりません。しかしAさんとBさんとは一応意思疎通ができているように見えます。でもAさんは、あれを塩だと思い、Bさんはあれを醤油だと思うという場面はありがちです。仕事でも同じような会話があり得ます。
上司「あれ、明日までに仕上げて下さいよ。」部下「了解です。」という会話も、急ぎのプロジェクトが一つであれば、齟齬はないかもしれませんが、複数ある場合は、お互いの認識しているものが違うかもしれません。
これがもう少し抽象化すると、もっと齟齬が生じる可能性があります。上司「明日は、社会人として適切な服装でくるように。」部下「分かりました。」などの会話の場合、上司の「適切な服装」と部下の「適切な服装」は一致しない可能性が高くなります。このように一見すると「分かる」と思っていても、分からないことがあるのです。
特に仕事の場では、具体的に話をし、また相手がどのように受け止めているかを確認することが必要です。そうすれば、ハラスメントも随分減ると思うのです。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)
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