経営の「バカの壁」
連休に入り、古い自分のノートを開いてみると、2004年に当時660万冊のベストセラー「バカの壁」を書いた東京大学名誉教授・医学博士で養老孟司氏の講演のメモが出てきました。
前職のコンサル会社に勤めていた時の勉強会だったかと思います。
メモの最初に、
「昭和20年8月15日 小学校に2年生 叔母が母に、戦争に負けたそうよ・・だまされた。
国語の教科書 各部分に墨をぬっていた。政治不信?経営不信?そんなもの信じる方が可笑しい。正しくなければならないという思いがどこかあるから・・間違っているのは、当たり前・・本も、間違っているものである。世に中には、何事にも疑うといった人間がいるが、私もそうである。人間は、何かを信じなければ生きられない。しかし、戦争と経験したものとしては、本当にそうかと思ってしまうこともある。鬼畜米英 日本は負けない・・国を挙げて戦って負けた。負けたらマッカーサー万歳!!となった。戦争中はなんだったんだ!と思った。」
とありました。
養老さんの「バカの壁」の話は、どこか頭の片隅に残っています。
欧米式マネジメントと「バカの壁」
当時、毎年、全世界120ヵ国からアメリカに集まるASTD(American Society for Training and Development米国人材開発機構)に参加して、欧米式マネジメントの発表を聞いて、
何の疑問も持たずに、当時のお客様に提供していました。その後、2009年に坂本先生に連れて行ってもらった日本の多くの企業の経営を確認して、自分の頭の中に「バカの壁」があったと思いました。欧米式のマネジメントとは、真逆の経営をしながら、大きな成果を上げている会社を数多く見たからです。
経営についてわかっていると「バカの壁」
もう一つは、26年半勤めた会社を辞めて、株式会社イマージョンを設立したときです。退職金の多くは、大学院の学費や会社に勤めていたら、参加できなかった当時の競合他社開催のセミナーに使いました。収入が無くなり、退職金はドンドン減っていきましたが、新しいことがわかることの喜びでワクワクしていた時期でした。会社を辞めたら、クレジットカードが使えなくなると知り、起業しても経営が軌道に乗せられないリスクも考え、サラ金も含めてカードを6~7枚程つくりました。想像していた以上に現実は厳しく、信用がなくなり金融機関はお金を貸してくれません。
そのため、千代田区の起業支援の相談室に行き、小さな信用金庫から融資を受けました。
採用では、役員二人だけの築40年のアパートの一室の会社に入社しようと思う人はいません。前職では、経理や人事をやっていたのでわからなかったのです。会社の看板があり、有名な会社の大きなプロジェクトを数多く経験すると、何か自分でも経営ができると錯覚してしまいます。こうした意味では、私も「バカの壁」の中で起業したのだと思います。
それ以来、経営コンサルタントでなく、組織開発コンサルタントと名乗るようになりました。経営なんてやっていないのに、経営コンサルタントと名乗るのが恥ずかしくなったからです。
人間は、何かを信じなければ生きられない。
冒頭の講演からの抽出です。しかし、逆説的ですが、何かを信じなければ生きられないことが、「バカの壁」を生むことになるのです。養老さんは、人間は、自分の脳に入ることしか理解できず、学問が最終的に突き当たる壁は自分の脳だと言います。この状態を指して「バカの壁」と表現しました。知りたくないことは、自主的に情報を遮断し、耳を貸さないというのも「バカの壁」です。心理学でいえば、防衛機制です。
私は、「バカの壁」をつくるものの一つに、経験してないでわかったような錯覚に陥ることだと思います。
マイケル・ポーターを、以前、同じく前職で日本に招聘した際に、当時の前職のトップは、「学識未経験者」と称しました。
「ポーターが講演した競争の戦略は参考になるが、経験の消化がない点滴知識であり、いきなり血管にはいるようなものだ」
と言ったのです。
こうした話を聴いていましたから、私が起業で「バカの壁」を自分でつくっていたときに、比較的早目に修正ができたのではないかと感謝しています。
養老さんのおかあさんは開業医で
「100人は患者を殺さないと本当の医者にならないと当時いっていた」
と話れていましたが、経験がないと医者などできないといった意味です。
私たちは、自分の知識や経験に基づいて世界を理解しようとしますが、それが時に誤った結論や対立を生む原因となります。
養老さんは、こうした「バカ」の存在に気づき、その影響を減らすためには、
内省(自分のことを振り返り考えること)と批判的思考が不可欠であると主張したのです。
学者に限らず、コンサルタントも同じです。その他、医者・政治家他、「先生…」等と呼ばれると、ポーターに限らず、経験の消化なしに誤解してしまうのです。そのため、「バカの壁」が高くなって越えられなくなってしまうかもしれません。
古い講演メモをノートで見つけて、
自分も気をつけなければならないと、改めて思いました。
連休で、久しぶりに書店にいくと、「人生の壁」の新刊がありました。以前、発刊された「自分の壁」と合わせて、読んでみたいと思います。
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