社内貸付け

社内貸付制度がある会社や、制度まではないとしても社員から懇願されて貸付を行うような場合がよく見られます。社員が困っている時に手を差し伸べることは一見社員にとって、いいことのように思いますが、注意が必要です。

 まず何故借入れが必要となるのかを確認することが大切です。貸付けをするか否かを決めるための聞き取りですので、プライバシーに関わることであってもハラスメントにはなりません。金融機関からローンを借りる際に、他の使途目的や他の借入状況を確認されるのと同じです。

 金融機関でもない会社の貸付けでこのような調査をするのは社員のためでもあります。

 使途が明確だったり、イレギュラーな出費がある場合は比較的問題は少なく、貸付をしやすい状況といえます。

一方で、他に借入れがある場合や特にイレギュラーな出費がないにもかかわらず、社内借入れを希望される方は、すでに借金返済が自転車操業になってしまっている可能性があります。この場合は、社内貸付けで一旦はその場をしのいだとしても、いずれ限界がきてしまいます。会社の借入れも返せず、破産ということになれば、本人にとっても大きなマイナスとなってしまいます。債務整理は、早ければ早いほど傷が少ないので、債務整理も含めて相談に応じるべき段階ともいえます。

 次は返済です。多くの会社では翌月の給与から差引く、又は分割で差引く取扱をしていると思います。社長から「次の給与から差引いておくよ。」といって、一方的に差引くと法律違反になる可能性があります。労働基準法では、賃金の全額支払の原則というのがあります。賃金は全額を支払わなければならないと法律で定められているのです。そのため貸付金の返済を勝手に相殺してしまうと法律違反になります。

 返済にあたっては、借りた社員の自由意思に基づく返済のみが有効となります。したがって、後々お互いに嫌な思いをしないためにも、きちんと署名捺印のある返済の合意書を作成しておくことが望ましいです。

 それから更に注意しなければならないのは、相殺(差引き)できる金額は、給与から税金、社会保険料等を差引いた手取額の4分の1までと決まっています。それ以上の差引きも法律違反となります。

 折角社員のためを思って、社内貸付けをした結果、会社も社員も嫌な思いをしてしまうことがあります。社内貸付けはいくら社員のためだといっても慎重な対応が望まれます。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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