労働時間を増やせば、労働生産性は上がるのか?
一般社団法人新経済連盟が2025年7月1日付けにて、「いま、働き方改革から「働きがい」改革へのチェンジを」との提言を公表しました。
この提言では、働き方改革の結果、「いま、起きていること」として、熱意ある社員の割合は世界最低水準、様々な分野で続く深刻な労働力不足の2つを問題として掲げ、「一人ひとりが働きがいを感じることができれば・・・」として、「主体性や創造性が向上し、生産性や組織のパフォーマンスが向上」、「エンゲージメントが高まり、定着率や採用力が強化」「自律的なキャリア形成を通じて、労働市場の流動性も促進」することにより、労働力不足解消の好循環に繋がるとしています。
その提言の第1として、労働時間法制の選択的柔軟化を目指すとして、残業規制の例外とした高度プロフェッショナル制度の業種要件を撤廃すること、次世代育成等を趣旨とした新制度を創設し、労働時間に関する規定を一部適用除外とすることを主張しています。
確かに、最近の議論では、残業を自らしたい人にも残業をさせないというのはおかしいのではないか、という話もよく聞くようになっており、この提言はそのような趣旨からの延長線上にあると思われます。また「働く」ということを真剣に考えない傾向が増えているということはあるかもしれません。
しかし、生産性の向上に「労働時間」規制の撤廃が真っ先にくるのか、には疑問があります。
そもそも労働生産性とは、就業者1人あたりの付加価値(GDP(付加価値)÷就業者数か、就業者1人あたり・就業1時間当たりお付加価値(GDP(付加価値)÷(就業者数×労働時間))で算出されます。
つまりそもそも労働生産性とは、「より少ない労力でより多くの経済的成果を生み出すこと」です。
就業者1人あたりの労働生産性水準は、1位がアイルランド、2位がノルウェー、3位がルクセンブルクであり、日本はOECD加盟38カ国中32位です。ちなみに就業1時間当たりの労働生産性は、1位がアイルランド、2位がノルウェー、3位がルクセンブルクで、日本はOECD加盟38カ国中29位とほとんど順位は変りません。
アイルランドの週平均労働時間は32.15時間といわれています。
つまり、労働時間数を増やしたからといって、労働生産性が上がるわけではないと言うことです。むしろ提言のようにただやみくもに労働時間規制を撤廃したとしても、分母である時間数のみ増えれば、労働生産性はかえって減ってしまうのです。
どのように付加価値を付けるのかを考えるのは経営者です。
安易に労働時間を増やすべきだと主張するだけでは、何らの改革にもならないのではないかと思うのです。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)
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