他責がなぜいけないか

「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」(光文社未来ライブラリー、J・D・ヴァンス著)を読んでいます。J・D・ヴァンス、今現在、アメリカ副大統領となっている人です。「ヒルビリー・エレジー」が発刊されたのは、2017年、まだJ・D・ヴァンス氏が何者でもなかった時の回想録です。

 アメリカ、オハイオ州のミドルタウンというラストベルト地域に住む白人の当時の状況を伝える回想録です。現在のトランプの政策を理解する上でとても参考になる本です。

 AKスチール(アームコ・カワサキ・スチール)という会社により地域社会が支えられてきたミドルタウンが、会社の衰退と共に、貧困化していくにも関わらず、そこから抜け出せない白人労働者の複雑な現実が書かれています。

 この本の序文に次のような一節があります。これは、ヴァンス氏が大学に行くための資金を捻出するため、タイル会社の倉庫で重労働をしていた時に、他の若者が何人も仕事に我慢できずに辞めていく状況を見ての感慨です。

「マクロ経済の動向や国家の政策の問題よりもはるかに根が深い。あまりにも多くの若者が重労働から逃れようとしている。よい仕事であっても、長続きしない。支えるべき結婚相手がいたり、子どもができたり、働くべき理由がある若者であっても、条件のよい健康保険付きの仕事を簡単に捨ててしまう。

 さらに問題なのは、そんな状況に自分を追い込みながらも、周囲の人が何とかしてくれるべきだと考えている点だ。つまり、自分の人生なのに、自分ではどうにもならないと考え、なんでも他人のせいにしようとする。」

 このような傾向について、他のアメリカの研究者が次のように分析をしています。

 これらの人達は、人生の早い段階から、自分たちに都合の悪い事実を避けることによって、あるいは自分たちに好都合な事実が存在するかのように振る舞うことによって、不都合な事実に対処しているが、その結果、自分自身の真の姿を直視するのを困難にしている。

 つまり、他責の問題点は、自分自身の真の姿を直視することができないということにあります。自分自身の真の姿を直視できないければ、解決策、改善策を適切に講じることはできなくなります。

 これは、経営についても同じです。

 他責にしない経営、坂本光司先生がいつもおっしゃっていることです。環境、ライバル会社、社員、顧客等経営が上手くいかない理由を他に求めることを戒めています。この真意は、他責にしてしまうと、本当の問題点を見失い、適切な解決策、改善策を講じることができなくなってしまうという点にあるのではないでしょうか。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

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