ダイバーシティ経営を考える
人を大切にする経営学用語事典によれば、ダイバーシティ経営とは、「性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観等の多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方等の多様性を含む」人々を「積極的に採用し、その多様性を尊重し、能力が最大限発揮できる機会を提供して活かす経営であるとされています。
そして、人を大切にする経営は、このような多様性を尊重します。なぜなら、企業に関わる様々な関係者を幸せにすることが経営の目的だからです。
その結果、社員のモチベーションやエンゲージメントが向上し、個人の成長とキャリアの発展が促進され、結果として離職率の低下や社員満足度や生産性が向上する効果も得られます(同書、P65)。
産業革命後、工業化が進展する中で、「労働者」には均一的な労働が要求されました。丁度そのころ、アドルフ・ケトレーが「平均値」という概念を発明しました。
そして1900年代に入り、経済学者のスチュアート・チェイスは、「個人の才能はあまりにも統一感がなく予測不能なので、社会の組織で重要な役割を任せる指標にはなり得ない。平均的な人間を土台にしてこそ、耐久性のある社会制度は構築される。平均的な人間に訓練を施せば、みごとにとはいかないが適切に、いかなる地位の役割もこなすことができる。」(『人類に関する正しい研究』)」というように、「労働者」に均一性を要求する理論が構築してきました。
この「平均値」という概念は、今の時代の私たちの考え方も支配しています。子どものころから、平均点やら平均偏差値に悩まされてきました。
経営においても、この平均値を基準と置き換えると、現在の必要な考え方となります。
なぜなら、組織には、一定の基本となるマニュアルやルールがどうしても必要だからです。マニュアル等があるのとないのとでは、社員の成長にも影響が出るのは確かです。
ダイバーシティ経営の考え方は、これらのマニュアル等を否定するものではないと思います。マニュアル等を基本としつつ、その上で個性を尊重することだと思います。
1940年代、アメリカ空軍で多くの墜落事故が起こりました。当時のアメリカ空軍の飛行機は、パイロットの身体的特徴の平均値を計算し、その平均値に合わせたコックピットを作っていました。しかし、事故後の検証で、個別のパイロットと平均値と比較したところ、平均値に合致した身体的特徴をもつ人はいなかったそうです。その調査結果を受けてアメリカ空軍は、座席や操縦桿の位置を動かせるようにコックピットを個別のパイロットに合わせることにしたそうです。(『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』トッド・ローズ著)。
マニュアルもこのコックピットと同じではないでしょうか。平均値を基準として作成するとそれに合わない人が出てきます。合わせるようにマニュアルにある程度の融通を利かせることも経営者の役割なのだと思います。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)
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