対面コミュニケーションの重要性
昨日(10月22日)、退職代行大手に警視庁が弁護士法の疑いで家宅捜索に入りました。この点はマスコミ報道に任せるとして、ここでは、違った観点で考えたいと思います。
民間の退職代行サービスは、2017年に始まりました。それ以前は、弁護士や労働組合がいわば退職代行的な役割をはたしていましたが、民間企業が参入したのは8年前からです。
新規学卒者の3年離職率は、35%前後で2003年から現在に至るも変っていません。
そのような中で、なぜ退職代行サービスが事業として成り立つに至ったのでしょうか。
確かに退職の申出は、退職する側にとってもプレッシャーがかかるものです。引き留められる、イヤな顔をさせる、相手を動揺させるなど気の重い手続ではあります。そして、人はこのようなプレッシャーのかかる難しい場面では、出来るだけ直接の対面でのコミュニケーションを避けたいという思いが強くなるだと思います。その結果、退職代行やSNSによる一方的な退職の意思表示の方法がとられてしまいます。その根本には、日頃の社内におけるコミュニケーション不足があるのではないかと思うのです。
対面でのコミュニケーションには、非言語的な情報、例えば表情、ジェスチャー、トーンなど、相手の反応を見ながら話が出来るために、複雑な話題には適しています。また一方的な感情に陥りにくい面があり、信頼関係を醸成しやすいとも言われています。
確かに、ネガティブな話しをすることは誰にとってもしんどいことです。避けられるなら避けたいと思う心情は分かります。しかし、ネガティブな話しであるからこそ、直接の対面によるコミュニケーションが必要なのではないかと思うのです。
ネガティブな話しでも直接対面でコミュニケーションを取れるような関係を作るためには、日々の直接対面によるコミュニケーションが大切です。そして一方向からの対話に偏るのではなく、双方向の対話を心がける必要があります。
大学教育開発センターの葛城浩一さんは、「学生のコミュニケーション能力に関する現状と課題」において、現在の学生は、同世代とのコミュニケ-ションは得意だけれども、教員とのコミュニケーションは苦手、人の話を聞くことは得意だけれども、自分の意見を言うことが苦手であるとの調査結果を報告しています。
新入社員の多くは、このような学生と同様だと考えれば、上司とのコミュニケーションは苦手、上司の話は聞くけれども、自分の意見を言うのが苦手だという前提で、対応することが大切です。経営者や上司は、相手が自分の話を聞いてくれるからコミュニケーションが取れていると誤解してはいけません。
会社において重要なことは、経営者や上司が、社員と日々双方向のコミュニケーションを心がける、そして特に社員の話しを傾聴するという姿勢を保ち続けることだと思います。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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