人を大切にする経営の備え
人を大切にする経営を実践するにあたっては、周りの人を信用するというのがあると思います。できるだけ性善説で対応したい。しかし、どんな人でも善の面がある一方、色んな事情によって善のままではいられない時があると思います。いわば、性弱説です。人は弱くなっている時に、思わず善ではない行動をとってしまうことがあります。
経営者は、社員を信用しつつも、その人たちが出来心で善ではない行動を取らないような仕組み作りが必要です。
11月12日の日経新聞電子版によれば、「引っ越しサービス同業他社に顧客情報持ち出しか、リベロ元社員ら逮捕」という記事が載っていました。昭和の時代には、転職時に自らの顧客情報を持ち出して転職するということは比較的目にする光景でした。しかし今は、顧客情報は、企業の秘密情報の重要なファクターとなっており、それを持ち出せば、刑事罰が科せられます。個人情報保護法違反としては1年以下の拘禁又は50万円以下の罰金、不正競争防止法違反としては、10年以下の拘禁又は2000万円以下の罰金が科せられてしまいます。つい出来心で、という言い訳が効かない状況です。
顧客情報の管理を厳格にし、容易に外部へ持ち出しをできないようにすることは、社員を疑うからするのではなく、社員を守る意味にもなるのです。また万一、社員が出来心で違法なことをしてしまった場合に、毅然とした対応を取ることも、他の社員に対する教訓ともなりますし、本人にとっても過ちを克服して生きていくためにも必要なことです。
一見すると、社員を信用していないのではないかと思われる措置も、このように社員にとっての「備え」であると考えれば、対応することに矛盾はありません。
日本レーザーの故近藤宣之さんが社員を大切にすることと甘やかすこととは違うとおっしゃっていることはここにも通じると思います。
人を大切にするからこそ、社員が善でない行動を行わないように会社としてきちんと「備え」をしておくことも必要だと思うのです。
BCPとは大規模災害等の緊急事態だけでなく、日常に潜むリスクに対する対応も含めて考えるとすれば、これらのこともBCPとして位置付けることができると思います。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

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