転職や副業は奨励されるべきか

10月13日付け日経新聞に「転職・副業で受け入れ先支援 首相表明、学び直し拡充」との記事が出ていました。政府は「新しい資本主義」にむけて、「人への投資」として、3つの柱を表明しました。

 1つめは転職や副業を受け入れる企業への支援を新設、訓練後に非正規社員を正規に転換する企業への支援の拡充です。

 2つめは、在職者の学び直し、リスキリングから転職まで一括で支える制度の創設です。

 3つめは、社員を訓練する企業への支援金の補助率の引き上げです。

 このように転職や副業を重視した政策が打ち出されるのは、「成長産業への労働移動」を重視したいとの思いが全面にでています。これは、非成長産業に多くの人材が眠っており、その非成長産業が労働移動を停滞化させているという思いの裏返しだろうと思われます。しかし本当にそうなのか、この点はどの程度検証されているのでしょうか。単に机上の空論になっていないか、きちんと検証の上、その実証データを示すべきだと思います。

 多くの企業は時代に合わせて業種転換をするなど、雇用を維持し、かつ、世の中に役に立つサービスや商材を提供しています。今、国にとって一番大切なことは、経営者が企業責任を全うし、大切な人財と共に、世の中に多くの財とサービスを提供できるように支援することではないかと思います。

 そもそも企業が成長していくためには、社員が創意工夫をして、主体的にイノベーションを起こしていくことが必要不可欠です。

 またその意味では、主体的に深く物事を考え受け止め、創意工夫をしながら、主体的に世の中のために働くことが本来、企業で「働く」ことなのではないでしょうか。

 条件のいい企業に転職を繰り返すようなことを示唆するコマーシャルが流れていますが、何度も転職を繰り返し、いくつもの副業をこなす社員が、このような主体的な社員となるのかといえば、懐疑的にならざるをえません。

 このような政策が、将来の日本にとって、そもそも社員のためになっているのか、そしてそれが企業を通してお客様や世の中のためになっているのか、時の流れは激しくはありますが、一度、立ち止まってしっかり考えることも必要な気がします。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です