コンプライアンスからインテグリティの時代に

コンプライアンスとインテグリティは、いずれも外来語であり、明確な定義はないと思います。一般的にコンプライアンス(Compliance)といえば、法令遵守、社会規範(社会のルール)の遵守という意味合いが強い言葉です。これに対してインテグリティ(Integrity)とは、誠実さ、真摯さ、高潔さ、という倫理的な人の在り方をさします。

 P.F.ドラッカーは、「現代の経営」の中で、「経営管理者にとって決定的に重要なものは、教育やスキルではない。それは真摯さ(インテグリティ)である。」(上田惇生訳)と記しています。

また三宅光賴は、「戦略管理論 ミッションからインテグリティへ」の中で、インテグリティ・マネジメントを提唱し、その内容として「高潔性」「公平性」「倫理性」を挙げ、その中のインテグリティ(高潔性)として4つの内容を記しています。

 ①サービスや商品に「微塵も虚偽欺罔がなく」潔さと潔癖さを備えていること

 ②全てのステークホルダーから全幅の信頼が置かれていること

 ③言行一致

 ④「無知無能からくる愚行が無いこと。妥協や杜撰さ、怠惰や言い逃れがないこと」

 その上で、次のように述べます。

「インテグリティ・マネジメントを実行するには、決別しなければならない概念がある。それは呪縛といってもいい。

 最初に決別すべきは、『競争・成長・比較優位・顧客満足・企業価値・事業存続』といったこれまでの信奉概念からの改宗である。

 知らない間に、『他社を出し抜くこと・他社に勝つこと』が『顧客に選ばれること』『顧客価値を実現すること』と同義になり、『企業価値の増大と事業の存続』が、『勝利と成功』『成長と独占』と同義になった。」

 顧客満足を得ること、企業価値を高めること、事業を存続させることが悪いわけではないけれども、それが「競争・成長」とのみ結びつくことにより、企業の劣化が進んでいったという趣旨だと思います。

 時代は、大きく変りました。高度成長時代から低成長・成熟時代に移っていく中で、インテグリティは重要な概念になってきているのだと思います。もはや法令を遵守すればいいわけではなく、誠実さ、真摯さ、高潔さが経営者と企業そのものに求められているのだと思います。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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