「ル・クロ」

商業界の笹井編集長のブログから

あるレストランの社員第一主義経営
2017年02月26日(日) 06時00分00秒NEW !
テーマ:取材メモから

大阪御堂筋線・心斎橋駅から徒歩7分ほどのところに「ル・クロ」という店があります。
ル・クロとはフランス語で「畑」。創業は2000年。
オーナー黒岩功さんがフレンチレストランを開いたきっかけは小学4年生の授業参観日までさかのぼります。

その日の授業は家庭科でした。
彼はみんなの前でキャベツの千切りを実演、その包丁さばきのあまりの見事さに、その場にいた皆の喝采を浴びたそうです。
黒岩さんは家庭の事情から、毎日、家族の食事の準備していました。
そのためか、学校の成績もかんばしくなく、本人いわく「落ちこぼれだった」。
しかし、そのキャベツの千切りの実演が自信となり、その後、料理人を目指すようになります。

単身でフランスにわたり、パリのレストランの門を片っ端から叩き、雇ってくれるところを探しました。
100軒目にして、やっと皿洗いの職に就くことができ、店を持つという夢だけを糧に、朝早くから夜遅くまで人の何倍も働いたそうです。
その後、待望の三ッ星レストランに移り、本場のフレンチを貪欲に吸収することになります。
3年半にわたるヨーロッパ修業を終えて帰国すると国内でさらに研鑽を積み、32歳で独立。

といっても、創業時は資金もなく、心斎橋の奥まった路地の古びた物件を奥さんと2人で改装し、手づくりのレストランを開きました。
以来増収増益を重ね、店数は4店舗となっています。

なぜ、これほどの成功を納めたのでしょうか。
その最大の要因は彼の人柄でしょう。

同社には「出戻り社員歓迎」という経営方針があります。
実際に従業員の3割が出戻り社員です。
一度辞めた人間は二度と敷居をまたがせないという経営者が多い中で、黒岩さんは彼らを祝福して送り出します。
そして、「何かあったらいつでも戻ってこい」と温かい言葉をかけるそうです。

一度は店を辞めたものの、ほかの店や他業種の労働環境を経験した元社員たちは、数カ月後、「やっぱりル・クロで働きたい」と戻ってくるといいます。

「それには大変な覚悟が必要だったはずで、それでも戻ってくるスタッフは、誰よりも意志が強い人間だと言えるのではないでしょうか。一度、そんなふうに覚悟を決めた人間は、若いスタッフにともていい影響を与えてくれるのです」と彼は言います。

現在も「出戻り社員歓迎」という方針は掲げていますが、今や辞める社員はほとんどいません。
立派な経営者は、ほぼ間違いなく皆苦労しています。
家庭の事情で幼少時から自分で家族の食事を作らなければならない環境に育った黒岩さんもその例にもれません。
たった一人で言葉も通じない外国に飛び立ち、苦労の末に本場の調理技術を身につけました。
しかし、彼はそんな苦労などおくびに出さず、持てる技術を社員に伝授しています。

黒岩さんの朝は、全社員との握手からスタートします。
スタッフは全員が正社員。
経営効率を上げるために、FL(食材・人件費)コストをいかに抑えるかと腐心する会社が多い中で、従業員全員が正社員という外食企業はまれです。
小さい会社ながら、経営の品質において、一流ホテルにもひけを取らない企業なのです。

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