伊那食品工業株式会社【No37いい会社視察2017/8/23、講演2017/12/16】

今週は先週の塚越会長のお話に続いて井上社長です。
今回は①2017年8月に坂本ゼミ夏季合宿先のひとつとして訪問し、朝の掃除、朝礼の見学、会社ご説明、井上社長のお話、施設見学、レストランでの食事と盛りだくさんだった視察と②2017年12月に法政大学の公開講座で井上社長に講演いただいたお話からお伝え致します。特に井上社長は創業家ご出身という事で同社のDNAという切り口でまとめてみました。
https://www.kantenpp.co.jp/

概要(2017/8訪問時にいただいた会社概要から抜粋)
代表者 代表取締役会長 塚越 寛
代表取締役社長 井上 修
代表取締役副社長 塚越 英弘
専務取締役 埋橋 祐二
常務取締役 塚越 亮
設立 1958年6月
住所 長野県伊那市
年商 191億800万円(2016年)
社員数 445名(2017年2月)

●創業家として社長就任
伊那食品の創業家である井上家。1951年生まれの井上社長が2歳の時に家族で寒天を作っていた写真が残っています。井上社長のお父様は一度事業がうまくいかず借金が残った状態で、ほかにはなかった粉末寒天の製造を目指して1958年に伊那食品を設立。1937年生まれの塚越現会長が創業間もなく21歳で入社されて手腕を発揮し始めます。借金は当時の金額で数千万円あったと言います。

井上社長は1979年に入社。91年の常務取締役営業本部長を経て、2005年に塚越会長からバトンタッチを受け代表取締役社長に就任されます。
カリスマと言える名経営者の後を創業家として継承することは我々の想像をはるかに超える葛藤があったのだと思います。社外も社内も塚越会長を尊敬していて、“針のむしろ状態”だったと笑いながらお話されました。我慢できるのだろうかと自問自答の末、父の言葉“つぶしちゃ困る”を思い出し、“自分のことなど取るに足らない存在”と思えたことで気持ちが楽になったと言います。

しかも社長就任時期は寒天ブーム。社員の思いに心を動かされた当時の塚越社長が24時間操業を決断したことで売上は前年比40%増という過去最高の成長を遂げていた時期です。24時間操業はすぐに取りやめましたが、その後の3年間は減収減益となります。ブームによる急成長の反動は同社にとっても計り知れないことだったと痛感します。

●創業後15年頃の事故
寒天製造は水分を抜くことが大切な工程でした。そのため布で寒天をくるみ、700kgの重しをのせます。しかし女性社員が誤って自分の足に重しを落としてしまう事故が起きました。命に別状はありませんでしたが、足は生涯不自由となります。このことがきっかけとなり、当時の塚越社長は社員の安全を優先した大きな設備投資を決断します。とは言え、今の時代のように設備メーカーがあるわけではありません。情報を集めて、ある酒造メーカーに“お酒を搾る機会があるようだ”とのうわさを聞きつけ、団体旅行に紛れて視察をしたのでした。

●1977年相場商品からの脱却

冬場に農家が副業として生産する相場商品だった寒天。業界の将来に危機感を持った同社は新聞広告を出し寒天の年間を通した安定生産体制ができたことを伝え、相場商品からの脱却を訴えました。そしてその後実現させていきます。
しかし寒天協会から追放されてしまいます。追放されたことで自社開発・製造の道を進むのみとなった同社は、今思えば“追放されたことが良かったこと”と感じ、今では寒天を中心にさまざまな研究開発・商品開発につながっています。

●掃除への思い

社員やパートさんの中から掃除への価値観が現れるようになりました。
・私がやらずに誰がやるという女性社員
・元旦だけ掃除する男性社員
・台風の日だけ掃除する社員
井上社長の価値観は“俺よりやっている人はいちゃいけない”
会社の敷地をきれいに保つ、来客者への想い、掃除をすることで自分自身が成長する、、。
いつしか掃除をする人の中に想いが芽生え始め、継続によってDNAとなっていく。
それはまるで人類の歴史の中でいつか誰かが始めたことが現在の習慣やことわざになったような普遍ともいえるものに繋がっているのだと実感できるのです。延べ何十万、何百万回の掃除という行いが掃除を超える存在になるということではないでしょうか。

伊那食品は創業家出身の井上修氏がこの十数年社長をされたことでそのDNAを注ぎ込み、一企業としての存在感を観念的に高めたと言えるのではないでしょうか。
井上社長は2019年に塚越会長の息子である副社長;塚越英弘氏に社長を譲ります。
創業家としての想い以上に会社や社員の幸せを追求した見事なバトンとなることでしょう。
寒天を作る前に人を作る会社という井上社長の言葉が笑顔とともに記憶に残ります。

***補足***
この投稿では2012/4~2018/3までの6年間法政大学大学院 政策創造研究科 坂本研究室で経験した【いい会社視察】・【プロジェクト】・【授業で学んだこと】を中心に、毎週火曜日にお届けしております。個人的な認識をもとにした投稿になりますので、間違いや誤解をまねく表現等あった場合はご容赦いただければ幸いです。(桝谷光洋)

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