生産性向上には「人を大切にする」思想が必要

労働基準法に1日8時間の定めができたのは、1947年です。もともとは、1817年にロバート・オーウェンが提唱した「仕事に8時間を、休息に8時間を、やりたいことに8時間を」と24時間を3等分したスローガンに由来すると言われています。すでに200年以上前から労働時間8時間と言われていたことになります。200年前は産業革命により工場労働が栄えた時期でした。工場労働を念頭にした労働時間の考え方でした。

 今でも世の中では、この1日8時間労働はスタンダードな基準です。

 たとえば、厚労省の薬剤師配置基準において、薬剤師1人が1日に取扱う処方箋は40枚を限度となっていますが、厚労省は、2016年、調査の結果、薬剤師の院外処方箋1枚の調剤に要する時間は12分であり、1日8時間に見合っていると公表したりしています(なお休憩時間は入っていない計算になりますが)。

 しかし、ITも発達し、生活も便利になったのに、なぜ今でも8時間労働なのか?ましてこれにプラスして残業が発生するのか?と思うと不思議なことです。

 働き方改革により、労働者1名当たりの労働生産性を高めれば、残業はなくなると言われてきました。しかし未だ新型コロナウイルス感染症の影響は別にして、世間一般的に残業が減っているとはいえない状況です。「労働生産性を高めろ」というスローガンが一人歩きし、結局生産性の向上も労働者個々人に任せてしまっているように思われます。

 2019年のOECDによる日本の1人当たり年間平均労働時間は1,644時間、デンマークは1,380時間、ノルウェーは1,384時間、ドイツは1386時間と日本と約250時間以上違いますが、1人当たりの労働生産性は、デンマーク111,393ドル、ノルウェー129,621ドル、ドイツ106,315ドル、に比べ日本は、81,258ドルと一桁違います(OECD2018年統計)。日本よりも年間労働時間の短いデンマーク、ノルウェー、ドイツは日本よりも労働生産性が高いのです。

 労働生産性を高めても結局1日8時間労働であるとすれば、労働者個々人のモチベーションも上がらず、その結果、労働者個々人は労働生産性を高めようとはしないのではないでしょうか。

 たとえば、先ほどの薬剤師の例でも、調剤機械を導入することにより、生産効率が約30%程度上がると言われています。その場合に、経営者側が、生産性効率が上がった分だけ業務を増やし、1日50枚処方箋を作成しろ、というのは業績重視の経営です。生産性効率が上がった分、1日の労働時間を6時間として、空いた時間を自己研鑽や社会貢献など社員のやりたいことにあてられるようにするというのが、これからの時代の労務管理のあり方ではないでしょうか。

このような思想で労務管理を行う時代になれば、労働生産性は高まり、社員の人生はより豊かになります。これこそ人を大切にする企業のあり方ではないでしょうか。

(学会 法務研究部会 常務理事 弁護士山田勝彦)

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