企業によるコロナワクチン接種対応について

ある外食産業大手の会社が新型コロナウイルスワクチンを原則接種するよう社員に求めるとの記事が新聞に掲載されました。アメリカではワクチン接種を会社が義務化できるとの指針を出しています。しかし私はワクチン接種を義務化ないし原則接種要請をすることには反対です。原則接種要請、というのは、文字通り、原則と例外を明確にすることになります。接種する人が原則で、接種しない人が例外となります。

当然に原則側は多数となりマジョリティ、例外側は少数となりマイノリティとなります。私が危惧するのは、この点です。

 以前であれば、日本は同調圧力が強いとか、日本は集団主義的だからマイノリティへの配慮に欠けるというような説明もあり得ましたが、社会学的には、このような考えは既に否定されているように思われます。

 私が思うのは、日本では「権利」に対する輪郭が曖昧なのではないか、という点です。あまりステレオタイプな説明は誤解を生じることになりますが、あえていえば、日本では明確な意味で権利侵害に対する闘争がなされなかったのではないかと思っています。権利侵害に対する闘争をしてくると、ぎりぎりで守られるべき権利を守るという闘い方になるので、守るべき権利とは何なのか、ということが先鋭化、明確化してくるのではないかと思うのです。そのような経験を経ていない日本は、「権利」に対する輪郭が曖昧なのだと思うのです。

 そのため、マイノリティの「権利」を守る、という点に確信が持てないのだと思います。もちろん、

前述した外食産業大手の会社も健康上の理由からワクチン接種をしないと判断する人に対してまで、ワクチン接種をしないことで、村八分や事実上の強制圧力を及ぼそうと思っているはずはありません。しかし、健康上の理由が列挙されるわけではありません。この点は健康上の理由で不安だから受けないという人もいると思います。そのような人に対しては、受けるべきだと説得すべきでしょうか。思想的な理由や考え方によって今回ワクチンを受けないと判断する人に対してはどうでしょうか。これらの人がワクチン接種をしないと考えた場合、会社内で居心地の悪い思いや嫌な思いをしないですむでしょうか。

 ワクチンなんて受けなくても大丈夫と軽い気持ちで受けない人にワクチンを受けさせたいという気持ちは分かりますが、様々な理由でワクチンを受けない人が、会社内において居心地が悪いとか、働きにくいとかいうことがあってはならないと思うのです。会社内のワクチン接種に関しては、慎重の上に慎重に対応するべきだと思います。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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