旧習を打破し需要を創造する 人形工房「ふらここ」
東京都中央区東日本橋は、江戸開府以来の交通の要所で問屋街として栄えてきました。株式会社ふらここは、新しい経営スタイルの人形工房として注目を集めています。社長の原英洋さんが2008年に設立しました。原さんの祖父は人間国宝の人形師で、母もそれを受け継ぐ伝統的な人形師家系にありながら、家業を継がずに独立しました。業界の常識にとらわれない製造体制とデザイン、値引きなしのネット限定販売を展開しています。若い世代のお客様のニーズをしっかりとらえて独自に作り出した商品は、1年先まで予約注文が入っています。原さんが作った製販一体のビジネスモデルは業界の旧習を打ち破る過激な挑戦でしたが、低収入だった職人の仕事を守り、業界の伝統を守ることにつながりました。
社名である「ふらここ」とは、「ぶらんこ」を意味する日本の美しい古語で俳句においては草花が芽吹く春の季語となります。ふらここでは、雛人形と五月人形を中心とする日本人形を製造し、主としてインターネットで販売する会社です。子供の成長を願い人形を飾ってお祝いする文化は世界中で日本だけとのことです。平安時代から受け継がれてきた「子供への愛を形にする文化」を、ふらここは現代の生活に合わせてお届けしています。
社長の原さんは、3代目として生家の人形づくりと販売に携わっていたときにこんな経験をしています。ある日、偶然にもお客さまから注文キャンセルの電話を2本受けました。「雛人形を飾る場所がないから」という理由でした。注文をされたのは祖父母でかわいい孫へのプレゼントとして注文されていました。しかし、贈られた若いお母さんは負担に感じキャンセルされたのです。そこで原さんは、置き場に困らないコンパクトな雛人形を思いつき職人に提案しました。すると職人からは、お客さまに迎合して伝統文化を破壊する提案だとして断固反対されたのです。何度も話し合いをしましたが決裂し、原さんは会社を辞めて独立しました。その時の決意をこう話してくれました。「伝統は手法を守るだけでは続きません。時代のニーズに合わせて手法や商品を新しく作るから伝統が守られるのです」
業界の伝統的なやり方は、製造と販売が完全に分離し、職人が分業して各パーツを大量生産しすることです。パーツを組み合わせた人形はどのお店でも同じ商品となり、お店では値下げ競争を強いられるので業界全体での売上額もどんどん減少します。人口の少子化により年々衰退していく業界では収入を確保できない職人が辞めていき、お店の廃業・倒産が増えています。
原さんは2008年の独立から、若い職人さんを一人ひとり口説きながら物づくりを始めました。新しく作った小さな雛人形は独立当初から好調で、早々に完売となりました。商品の平均単価は10~12万円と他社より少し高めの適正価格を確保しています。予約注文の好調で1年先の職人の生活を安定させることができました。人形は「手のひらサイズ」「顔は丸い赤ちゃん顔」「色はパステルカラー」「素材や製造は伝統技法」という4つの特徴があります。ふらここのアトリエでは、母親世代の若いスタッフが創造力とセンスを活かし、心から欲しいと思える人形を制作しています。また、ショールームを備えたりお客様アンケートを積極的に実施し、顧客ニーズの変化を素早くつかんでいます。さらに、破損の修理として「お人形病院」をつくり製販一体ならではのアフターケアーも充実しています。
ふらここは社員30人の小さな会社ですが、衰退産業の中で旧習の打破が需要を創造し、見事に非価格競争の成功を証明してみせました。(学会会員:根本幸治)
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