餅は餅屋に(法務と税務の違い)

以前、次のようなご相談を受けたことがあります。

 オーナー会社の社長が突然亡くなり、子ども4人が相続をうけることになりました。会社は長男が引き継ぎ代表取締役となりましたが、父親の株式を全部取得するほどの資産もなく、結局4分の1ずつ子どもが相続をしました。

 しばらくして、今後のことも考え、兄弟で話し合いをし、長男以外の他の3人は株式を長男ないし会社に譲るようにして手放していく方向にまとまったそうです。そこでスキームを弁護士に相談しました。

 その弁護士は税務の基本的な知識もなく、法的に単純に考え、資金のない長男が株式を取得できないため、会社に他の3人が5年かけて株式を分割して売却するスキームを作り、合意書を作成しました。もちろん、売却価格は一定の金額にし、廉価売買にならないよう当時の株価の60%程度の値段で売買をすることにしました。

 1回目の売買を終了したところで、会社の税理士がこの株式売買に気が付き(なぜか、税理士には相談をしていませんでした。)、税理士から今後の売買について待ったがかかりました。

 皆さんご承知のように、個人が法人との間で取引をする場合、本来の価格よりも特に安く、つまり廉価で売買をしてしまうと個人の方に本来の価格で譲渡したものとみなされ、譲渡益に対する税金「みなし譲渡税」が、実際の売買価格ではなく、株式の本来の価格(一株当たりの純資産額といわれています)を前提に課せられてしまう仕組みになっています。

そして、本件のように、会社が株式を買い取ると、その株式は自己株式となってしまい、一株当たりの純資産額を計算する際の母数に含まれなくなってしまうのです。

すごく単純化してご説明しますと、1000株発行していて純資産が1億であれば、1株は100,000円となります。しかし、その内の200株が自己株式だとすると、1株は125,000円となります。すると、その50%の62,500円未満の1株30,000円で売買をしたとすると、みなし譲渡税が1株125,000円を前提に発生してしまうということになり、売主の税金の負担が重くなってしまいます。

この相談のケースも2回目以降は、みなし譲渡税が発生してしまうスキームになっていました。つまり、法務上は問題のないスキームでも税務上は大いに問題が生じるスキームとなっていたのです。

弁護士の中にも、税務の基本的な勉強をしている人は多いですが、法務と税務は全く異なりますので、「餅は餅屋」で、それぞれの専門家にご相談いただきたく思います。私も、税務に関する点は、かならず税理士にアドバイスをもらうようにしております。

(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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