懲戒処分のあり方

最高裁判所、2022年6月、パワハラで停職6カ月となった地方公務員の処分は「相当」と認めました。新聞報道によれば、部下への暴行などで2017年に停職2カ月と同6カ月の処分を受け退職した富山県氷見市の元消防職員の男性が、市に慰謝料などを求めた裁判だ。男性は当初の2カ月の停職中に正当な理由なく被害者に面会を求めたとして、停職6カ月の懲戒処分をされたというものです。被害者にどのように面会を求めたのかその具体的な方法についてはわかりませんので、この処分が重いのか、軽いのかはにわかには判断できないところですが、当初のパワハラ自体は2カ月の停職に対して、停職中に被害者面談を求めたことが6カ月の停職という点で比較的重い処分であったことは推定できます。

ところで、国家公務員や地方公務員には、法律で懲戒規定があります。

地方公務員法29条は次のように規定しています。

職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

 この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」

国家公務員法にも同様の趣旨の規定があります。

国民、市民の奉仕者である公務員には、自ずと厳しい規定が設けられています。

これに対して、民間の私企業の社員に対する懲戒を規定する法律はありません。もともと、私企業においては、企業と社員は対等な私人として労働契約関係を結ぶ関係であり、私人には私人を懲戒する権限はなく、不祥事には契約解除か損害賠償請求で対応するのが本来の姿と説明されたりします。しかし、契約解除とは解雇のことであり、これでは解雇と損害賠償という方法しかないということになります。私人の間でも内部的にルールを作ることができ、解雇や損害賠償ではない程度の懲戒をルールとすることも認められています。それが就業規則です。このように法律上の根拠のない私企業における懲戒について、最高裁判所は、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別と事由を定めておくことを要する」として、就業規則に懲戒の規定がなければ懲戒をすることができないとしているのです。

懲戒権を行使することがないにこしたことはありません。しかし一方で、内部的にルールを設け、他の社員を守り、安心できる労働環境を整えるのも経営者の責任です。懲戒処分は前述したように法律上の根拠はありません。そのために経営者は、懲戒権を行使する場合も謙抑的に、最低限の処分で最大の効果が出るよう配慮することが重要です。それには単に罰則を科すというのではなく、手続過程が重要です。懲戒対象者の社員が、他の社員や顧客、社外社員にどのような迷惑をかけたのか、それを反省するためにどうすればいいのか、を問いながら適切な懲戒を行っていくことが重要です。

(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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