集中力と緊張感

9月5日、6日と第9回人を大切にする経営学会全国大会が行われ、その中で「日本でいちばん大切にした会社」受賞企業報告会が実施されました。コロナ禍ではありましたが、オンラインと会場とのハイブリッド方式で多くの方が参加されました。

 受賞された会社の経営者のお話は、いずれも珠玉の報告で、何よりも経営者の情熱をひしひしと感じました。そしてお話の中から伝わってくるその会社の社員の方々の様子をみると、明るさ、おおらかさの中に仕事に対する集中力と緊張感が伝わってくる感じがしました。この緊張感は決して、社員にプレッシャーがかかっているというようなギスギスした緊張感ではなく、誇りを持って仕事をしているというようなすがすがしい緊張感です。人を大切にする経営を実践していると、そこに勤務する社員は働き甲斐をもって仕事に集中し、すがすがしい緊張感をもって働くのだと思いました。

 そんな素晴らしい会が開催されている最中、3歳の園児が通園バスに取り残されて亡くなるという大変つらく、痛ましい報道がありました。その後、事件の状況とその園の様子や、保護者説明会、記者会見のニュースなどが毎日のように報道されています。たまたま通園バスの運転手が休みであったことから、73歳の理事長(兼園長)がバスを運転し、同人及び他の職員のミスが重なり、重大な事件となってしまいました。理事長は、バス内の確認を怠ったことについて、記者会見において「年齢的にひとつやると忘れてしまう」と発言していました。

 この発言を聞いて、とても残念に思い、憤りさえ感じました。

 経営学会2日目の基調講演をされた静岡県セイブ自動車学校は定年制がありません。80歳以上の社員もいます。確かに年齢と共に衰えてくるところはあっても、適材適所の配置をし、本人が働きたい限り働いてもらっています。自動車教習所ですから、事故には人一倍気を遣われていると思います。そのような会社で、社員の方は何歳になっても、その年齢に相応の集中力と緊張感をもって仕事をし、時には周りに社員がそのフォローをしているのだと思います。

 先の園児の事件は、決して理事長一人のミスで生じたものではありません。他の職員によるいくつものミスが重なりました。誰か一人でも、気が付けば防げたことです。決して年のせいではありません。残念ながら、年齢に関係なく、職員が日頃の仕事に対して集中力と緊張感を欠いていたとしかいいようがありません。理事長の発言を聞いていると、社員も大切にされていなかったのではないかと推測してしまいます。

 人を大切にする経営は、社員に働き甲斐を持たせ、社員が集中力と緊張感をもって働くことで、コンプライアンスが守られていく好循環を生んでいるのだと考えさられた2日間でした。

 受賞された会社の皆様、おめでとうございます。そして貴重なご報告ありがとうございました。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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