材料費の急騰と人手不足をどう乗り切るか

 当社は、2014年から人を大切にする経営に取り組んできました。その中の取り組みの一つとして経営情報の公開があります。具体的には、経営計画を作成し、月次決算を毎月公開する事です。

 経営計画書の中では、年度内に行う昇給、賞与、決算賞与の支給額や基準を明確にし、売上や利益に関わらず社員が確実に受け取れる金額を提示しています。売上や利益の減少によって収入が大幅に減少しては生計が立たないと思うからです。

 この事は、坂本先生から「会社の経営の目的は、社員の永遠の幸せの追求であり、経営計画は、売上や利益計画よりも先に、社員の昇給計画、賞与の支給計画が先にあるべきだ」と教えていただきました。

 幸いにも経営計画発表会を実施してからの10年間、当社は毎年5%以上の利益がでるような企業体質になり、決算賞与も毎年30万円以上を支給でき、最高では70万円を支給した年もありました。この間、社員は決算賞与の支給を目標にして仕事に取り組んでくれました。社員の一体感も年々少しずつ感じられるようになってきました。

 ところが、今期の事業年度も6か月経過した8月の決算では、売上金額は前年度比で5%増加しましたが、営業利益は50%減少してしまいました。その原因について決算書を調べたところ、利益が減少している原因は売上の増加以上に材料費・外注費が大きく増加している事がわかりました。

 振り返れば、昨年から仕入れ業者さんからの値上げの案内はポツポツとありました。当社の仕入れ製品や材料は大手のメーカー製品ですが、納品をしてくれているのは当社より規模が小さい会社や個人事業者のような商社さんたちです。いつも納期などで無理を聞いていただいていますから値上げは全て了承してきました。全社としては吸収できるものだと思っていました。

 当社が、経営計画で決めている決算賞与の支給基準は、営業利益の5%を上回った分を社員に還元するというものなので、営業利益が50%減ったという事は、単純に昨年支給した決算賞与が半分になるというもではありません。営業利益の5%がボーダーラインとなっているからです。おそらく、このまま残りの6カ月後の着地地点を予測すると、営業利益は会社の目標とする5%に到達するのどうかといった微妙になってきました。そうなると、決算賞与は支給できないという事になります。

 決算賞与というのは、そもそも営業利益を上回った分を社員に支給・還元するという考え方そのものは正しいのです。しかし、今回の材料・外注費の急激な高騰は、私が社長になってからの37年間では初めてであり、当社としても今回の事態を非常事態と捉えるべきかもしれません。

 会社の利益というのは、そもそも、研究開発や新規事業の準備、福利厚生の充実、経営基盤の強化と整備のためにありますが、それ以外にも非常事態や緊急実態の備えでもあるはずです。

 今回の事態に直面して思う事は、会社が5%の利益を先に確保し、社員が残りを分配するというやり方は「会社としては自分の腹は痛まない」という事と同じではないでしょうか。

 社員は、毎月の月次決算を見ているので今期の決算賞与が下がっても理解はできると思います。しかし、さらに来期以降も経営状態は厳しくなる事も不安に思っているのではないでしょうか。

 当社の給与水準は、東京の大手企業と比べればはっきり言ってまだまだ低いので、生活費の増加は多少の昇給では間に合わなくなっている現実も理解しなければなりません。

 その事を考えれば、当社も今期については、会社には長年の内部留保もあるので、非常事態の対応をすべきではないかと考えます。上手くいっている時は、社員に大いに還元し、悪い時は会社と社員が分ち合う事が正しい経営ではないでしょうか。

 最後に、坂本先生の著書「経営者のノート」NO.19の章を紹介します。

 「経営者の主たる仕事は5つだけである」と。その3つ目に「経営者の仕事とは、全社員が安心して一生懸命、価値ある仕事に取り組む事ができる、良い職場環境の整備・充実、さらに仲間意識が高まる良い職場風土の醸成」とあります。

 物価高、仕入価格の高騰により当社の経営は厳しさを増していますが、どんな状況にあっても、常に社員に「夢と希望」を与え続けられる判断でなければならないのです。

 (人を大切にする経営学会員 石川 勝)

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