「一所懸命」と「一生懸命」

多分、子どもの頃から使っているのは一生懸命であろうと思います。

大人になってから一所懸命という言葉があるのを知りました。

一所懸命とは、武士が1つの領土を命がけで守ることが元々の語源であり、その後所領という考え方がなくなり、一生懸命に変ってきたのだという説があります。

 しかし大人になってから、一生懸命よりも一所懸命の方が言葉としてはいいなあと思うようになりました。

 一所懸命の字句を見ると、「1つの事(所)に命を懸ける」という意味が見えてくるからです。昨今は、ライフワークバランスに象徴されるように、何事にもバランスが大切だという時代になっています。そのこと自体は間違いありません。社会や人間関係が複雑になってきてしまったので、生きていくためには、以前よりもよりバランスを重視することが必要です。

 しかし一方で、人は、「1つの事に命を懸ける」ことに憧れ、自分もそうしてみたいと望みます。大谷翔平さん、藤井聡太さんらの活躍を見て、誰もが一度はそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。

 そう思うと、多くの経営者の方々も自らの会社の経営に命を懸けていることに思い至るのです。寝ても覚めても、社員のことを考え続け、実践を重ねているのが経営者です。そう考えると、経営者はライフワークバランスなどとは言えない立場にいることが分かります。

 その意味では、経営者の仕事は、まさに「一所懸命」なのだと思います。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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