地域における小規模企業の未来

先日ある人口11万人の地方行政、商工会と共同で事業者に向けて事業承継調査を実施いたしました。このような調査ではどの地域でも50~60%の事業者に後継者がいないという現実が浮き彫りになります。しかし、今回は今後10年で約70%の小規模事業者が廃業を予定しているとの結果となりました。また、それらの会社の多くが業歴30年以上の事業者であり、中には100年以上の企業も何社かありました。これが現実となると地域はどうなってしまうのか心配になりました。その結果を受けて、市に相談窓口の設置や地域の金融機関などとも連携した事業承継施策の展開を行っていくこととなりました。

コロナが落ち着き、地域経済において人口減少の影響が浮き彫りになりつつあります。国も中小企業施策において地域での生産性を向上させるため、事業の統合や比較的規模の大きな中堅、中小企業を支援する施策に舵を切り始めています。「非効率な小規模企業」「賃金向上を阻害している」「成長意欲のない小規模企業」とややもすると小規模企業不要論のような論調にも聞こえる新聞記事が多くなってきています。しかし、人口がからと言って目に見える部分の数値のみを追い、効率化を進めることで地域の経済は活性化するのでしょうか。

社員9名、旋盤加工を得意とする精密部品製造業の後継経営者が4年前から下請けから脱却するために様々な活動を続けてきました。父の代には近隣の工場の孫請けで利益が出ず苦しい下請け企業の典型でした。当時コロナで時間がとれたこともあり、ある分野の新製品の試作開発を行い最終製品づくりに取り組んできました。その甲斐あって、1年半前にその新製品が高級自動車ディーラーのノベルティーに採用されたのです。そして、その小さな会社が地元の新聞などでも大きく取り上げられました。さらに、会社の理念やロゴも変えHPにて「より難しくて、短納期、少量の仕事を専門に受注します、難しい図面大歓迎!」という方針で受注を取りはじめました、それまでの相見積もりの仕事は一切やらずに、他社に採られてもいいと決めた結果、多くの企業から引き合いに答えられるようになりました。もともと、技術力があったことはもちろんですが、ポイントはアナログで使用できる機械設備を数多く残しているところに強みもあったのです。そのため、手作業での微調整など必要になるアナログを交えた少量の仕事が増えているのです。その結果、今では一切値引きをされないようになりました。さらに、若手の職人を採用、育成したいとそれまで事務所スペースが殆どない職場を改善しようと工場の隣に休憩室と打ち合わせができる施設を新設しました。その結果、ものづくりに憧れる地元の工業高校生が新卒で入社、技術の習得を行っています。

 これまでも地域経済はやる気のある小規模企業が支えてきました。いろいろな職業が選べることは豊かさの一つの尺度だと考えます。大きな企業やチェーン店しかないような地域に魅力はなく、それらの企業も取引する外注先がなくなり事業自体が成り立たなくなるでしょう。行政が優遇策を講じていくら移住を叫んでも人はこないでしょう。市場や規模、効率を追わなくとも持続可能な事業体を維持発展させることができることは人を大切にする経営学会の企業の皆様が証明しています。人を大切にする経営が地域経済に及ぼすインパクトはますます重要かつ大きななっていくと考えさせられる対照的な2つの事例でした。

(人を大切にする経営学会 事務局次長 水沼 啓幸)

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