46.事業承継のためにおおむね10年計画で準備する

100の指標 
100 indicators
【5.経営者に関する指標】
【5. Indicators for Management】

46.事業承継のためにおおむね10年計画で準備する
46. Management is prepared for the business succession with a 10-year plan.

151Pには福島県郡山市の「柏屋」さんが紹介されている。
当主は「本名 善兵衛(ほんな ぜんべえ)」を名のり続けいる。市役所への戸籍の手続きが面倒だそうだ。
165年続く理由をネットから拾った。

AIをはじめとして産業技術は目まぐるしく発展し、一方で人々の趣味嗜好は日に日に多様性を増しています。
そんな現代においても創業165年という老舗の御菓子屋が、福島県郡山市にあります。「柏屋」という、このお店は全国的に有名なブランドとなっているわけではありません。
「柏屋」は如何に事業を継続してきたのでしょうか?甘党ではない私はそれが不思議で仕方ありません。「日本のいい会社」(ミネルヴァ書房:坂本光司著)から要約しながら、その謎に迫ってみます。

江戸時代、郡山は奥州街道の宿場町として栄え、柏屋は郡山宿の本陣近くで旅館業を営んでいました。
そこから1852(嘉永5)年に宿の茶店で饅頭を売ったのがきっかけで、菓子屋に転じました。

初代の本名善兵衛は「病に薬がいるように、健やかなものにこころの和みが必要」との思いから「百歳の爺にとっても三歳の子供にとっても、饅頭は国民の滋養である」を原点に、世代を問わず誰からも喜んでもらえることを願って、薄皮饅頭を考案しました。そして美味しい饅頭は「まごころで包む」を信条にしてこれまで作られ続けています。
それにしても「柏屋」は、なぜこれほどの長きに渡り事業を継続できているのでしょうか?

私は、その要因の示す事例のひとつが今回紹介する「朝茶会」だと考えています。
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「朝茶会」とは柏屋本店では毎月1日の早朝行われる会のことです。その日は柏屋本店のある郡山駅前通りに長い行列が出来ます。
郡山が宿場町だった頃、この地域では「寄ってお茶でも飲んでがんさんしょ!」の言葉に誘われ、演題でお茶を飲む風習がありました。
朝茶会は柏屋4代目がその風習に倣い、友人を数人集めて朝食代わりに饅頭を食べることから始まり、その友人が友人を呼び、どんどん広がった結果です。

現在は、朝6時から8時の開催時間に、300~400人が来店します。参加の条件は「おはよう、行って来ます」の元気な挨拶。
中高生から通勤途中のサラリーマン、もちろん年配者が個人、友人連れ、家族連れが途切れることなく訪れ、全員に出来立ての薄皮饅頭と季節の菓子が、温かいお茶と一緒に無料で振舞われます。
会場は40席ほどしかないので相席になります。社長の巧みな誘導で一人で参加した人にも友達ができるようにしつつ、社員の素早い対応で、2時間で10回転を確保。朝茶会で出会い友達になった人や、結婚した人までいるそうです。

お菓子を楽しみにしつつ「いろんな人との触れ合いが楽しい」「実家に帰ったときのように温かく迎え入れてくれるのが嬉しい」
「毎月1日の早朝に実施されるので、今月も頑張ろうと気合を入れる行事にしている」など、参加者の感想も様々です。

朝茶会の日は、開始1時間前の5時にスタッフの朝礼が行われます。
社長は朝礼で「挨拶・笑顔・素早いお茶出し」の徹底を呼びかけます。
全社員交代での参加が義務付けられていて朝茶会は「まごころで包む」柏屋の理念教育の場でもあります。

朝茶会で出されるお菓子は、決して売れ残りや商品にならないものを出しているわけではありません。
目の前で職人が作っていくお菓子をそのまま提供しているのです。
一般的なマーケティングの視点でいえば、どんなに美味しいものでも食べてもらわなければその美味しさは分からないし、その市場も広がらない。
だからその味を広めることは大切!となります。しかしだからといって、例えば、街頭で試供品をアルバイトが道行く人に配るというのは、おそらく柏屋の方向性とは異なるでしょう。

柏屋の対象としている「お客さん」は未だ見ぬ人ではなく、目に見えて、挨拶したりおしゃべりしたり触れ合う人なのです。
饅頭の美味しさを知ってもらうこともありますが、そこに込められた「まごころ」を受け取ってもらうことが柏屋にとって重要なのだと解釈しています。
朝茶会は1974(昭和49)年から、元旦を除く毎月1日に休みなく続けられてきました。唯一、東日本大震災時に3回休みましたが、工場・店舗・社員が被災し、放射能汚染の不安の中、3ヶ月で再開しました。

「震災直後は、工場も物流もストップし何も作れない状態でした。
売り上げもゼロになったときの恐怖感は忘れられません。
しかしそのような中で、売り上げよりも朝茶会を優先して開催することは「こころの和み」を提供し続けてきた柏屋には当然のことだと思い直したのです。」と5代目は当時を振り返ります。
みんなが大変なときだからこそ「こころの和み」を直接届けることの出来る「朝茶会」を第一に考えたのです。

企業という立ち位置で、市場の中で売上増利益増を目指すのではなく、地域の中で人々に親しまれ活力源となり、その人々の活力をまた企業の活力とすること。お菓子作りを通して地域のつながりに必要な役割を担うこと。その象徴が「朝茶会」であり、それが165年続く秘訣なのだと思います。

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