カルロスゴーンの報酬は適正か?

本日、カルロスゴーン容疑者の再逮捕が決まって、拘留延長になりました。国内外の再逮捕に関する賛否は分かれているが、少し、経営者の報酬について考えてみたいと思います。

会長としての所得を過少表示したことに伴う、証券取引に関する不正が、最初の逮捕理由となり、その以外に様々なことが明らみになりました。こ

海外においては、経営者の人材マーケットと従業員の労働市場が明確に分離しており、経営者マーケットの所得水準と労働市場の所得水準では大きなかい離があります。ビジネス・ウィーク誌の定期調査では、アメリカのCEOの平均報酬は1980年にはブルー・カラー従業員の平均給与の42倍、1990年は同85倍であったが2000年には531倍になったとされています。

この格差の水準の是非については様々な意見がありますが、人材マーケットが明確に分離しているから可能な水準格差となっています。

また、日本企業の経営人材と海外の経営者人材マーケットの水準格差も大きく、米コンサルティング会社のタワーズワトソンによると、2010年度末の時価総額上位72社の日本企業の社長の報酬は約1億1000万円(中央値)。
約10億2800万円だった米国のCEO(最高経営責任者)の約10分の1で、英国と比べても6分の1であったとされています。
このように経営者としての特殊なスキルを持つ人材の層として、海外における経営者人材マーケットの存在は海外のグローバル企業の経営者選抜にあたって欠かせないものとなっていったと言われています。アメリカ経済が厳しく、ジャパンアズNO1と言われた時代には、外部の経営者に企業の変革を依頼するニーズがアメリカでも高まっていきました。

一方、日本においては、経営者のリソースとして一般的だったのは社員でした。
社員から内部昇格で経営者になることが通常であったため、エグゼクティブの人材市場は欧米に比べると未発達であると言われています。しかし、この市場が近年に成長し、多くの人が知っているように、ローソンの新浪氏がサントリーに、マクドラルドの原田氏がベネッセに・・・といったようなことが起こり、中小企業でも後継者問題から、経営専門家に経営をゆだねるケースも出てきました。

株式会社リクルートエグゼクティブエージェントの2008年度の調査によると、2007年に会社間を異動したエグゼクティブの数は1万1000名に上ります 。投資ファンドの出現、事業会社のM&Aの加速、事業継承・後継者問題、グローバルにビジネス展開ができる人材へのニーズの増大等を背景に今後もこの市場は、人材要件の明確化が進み、成長することが予想されます。

現状では比較的小規模の会社向けのエグゼクティブ市場が立ち上がってきたという段階であり、大手企業においては依然として社内昇格が主流を占めています。しかし、神戸大の三品教授はこの現象が決して日本固有のものではないとして、次のように書いています。

「米国では、専門職経営者の時代が日本よりも半世紀以上も前に到来した。所有と経営の分離を見取った本は早くも1932年に出版され、経営史の大御所は経営者資本主義の萌芽を19世紀から20世紀への移行期に位置づけた。20世紀は、大量生産と大量消費の時代とよく言われるが、実は米国が専門経営者の供給体制を整備して、彼らに強い権限を持たせると同時に、権限の乱用を抑止する方法を編み出すのに四苦八苦した世紀でもあったのである。」

つまり、日本の今の状況は過去に米国が通ってきた道である、というのが三品教授の主張です。日本特殊論に陥らずに他の先進国の状況を見据えると、経営環境のグローバル化の進展により、日本の経営者人材マーケットの成長が欧米に遅れて到来すると考えることもできます。現在でも、特にグローバル化対応が求められるような日本の大企業においては社内から適切な経営人材を調達できないようなケースも出現しており、大企業向けの経営者人材マーケットが今後整備されていくことも考えられます。

日本の経営者人材マーケットがどのように成長していくかどうか、ということは未知数ですが、グローバルな競争が激化する中で日本企業がこれまで経営者を選択/育成してきたやり方の変更が与儀なくなっているという人もいます。

カルロスゴーンにしてみれば、他のグローバル企業に比べて、10億円は非常に低く感じて、今回のような虚偽表示の原因になったことはカルロスゴーンの立場になれば予想できます。

一方、トヨタ自動車の豊田章男社長の年収が3億円2千万と言われ、カルロスゴーンの10億円と比較して、ゴーン叩きの材料になっています。しかし、豊田章男社長をはじめとする自社株を持っている経営者は、株の配当を得ています。豊田章男社長の持ち分比率でいえば、3億2千万円の役員報酬に加え、約8億円の株の配当があり、併せて11億2千万円になります。

ちなみに、東洋経済によると、ソニーの前平井社長の報酬は、27億円になり、確実に、日本の上場企業の報酬もアメリカ同様に上がってきていることがわかります。

https://toyokeizai.net/articles/-/236206?page=2

グローバル競争が当り前になってきたことにより、特に、グローバル企業の役員報酬が高くなっていることは、こうしたデータを見れば明らかですが、なんとなく別世界でピンときません。

今までの歴史において、アメリカだけでなく、大昔においては、株主重視の時代があり、労働組合活動が活発になったり、ステークホルダー重視の時代になったりと歴史は繰り返していますが、本来の企業経営の目的を考えたら、
報酬を吊り上げることに何の意味があるのかを考えさせられます。

カルロスゴーンの報酬の是非を考えていて、南の国からやってきた人が、白人社会を見て、「お金が神様であると考える」ことを不思議に思うことを描いた昔読んだパパラギという本のことを思い出しました。

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