労働関係の法律は経営者に厳しい?

経営者の方々とお話をさせて頂いていると、「労働関係の法律は経営者に厳しいよね。」と言われることがあります。本当に経営者に厳しいのでしょうか。

 法律の一番上位は憲法です。憲法では、自由・平等の原則が掲げられています。よく誤解を受けていますが、憲法はあくまで国家と国民との間の関係を規律しています。国家は国民の権利を侵してはいけないという原則です。

 それでは、国民同士はどうなのか。憲法的には、国民同士は対等であると考えられています。したがって、本来使用者(経営者)と労働者は対等なのです。

 民法は、対等な国民同士の間の法律です。この点は雇用契約でも同じです。使用者(経営者)と労働者は対等だと考えるのです。そのため民法では、627条1項において、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と規定されています。対等だと考えるので、どちらでも、いつでも解約(≒解雇)できると考えているのです。しかし実際に、裁判等で争われた場合には、理由のない解雇は無効となってしまいます。なぜか?以前は裁判例などで無効とされてきましたが、今は労働契約法により「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会理念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(16条)と規定されています。

 つまり、法律は、国民同士の場合は、原則として「いつでも雇用契約を解消(解雇)できる」という権利があるけれども、例外として「解雇に客観的に合理的な理由があり、社会的に見て解雇が相当」といえない場合は、使用者(経営者)は、この権利を通すことは権利の濫用となって、国は認めません、ということになります。労働契約法の第1条には、しっかりと(この法律は)「労働者の保護を図る」と規定されているのです。

 つまり本来、国民同士の契約は、雇用契約でも対等で自由だけれども、交渉力が弱く、立場の弱い労働者は保護するというのが労働関係の法律なのです。労働契約法の第1条には、しっかりと(この法律は)「労働者の保護を図る」と規定されています。そのため、労働関係の法律は、当然、一見「経営者に厳しい」く見えるのです。

 しかし、法律は最低限のルールを定めているにすぎません。それは労働関係の法律でも同様です。労働関係の法律も「人を殺すな。」「人の物を盗むな。」という法律と同じように、最低限の当然のことを定めたものです。

そう考えると、「経営者に厳しい」とは言えないのではないでしょうか。労働関係の法律が経営者に厳しいと感じてしまう時は、労使関係を見直さなければならない時かもしれません。

(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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