出産、育休等による不利益な取扱いの例

2023年8月14日付け日経新聞電子版に「女性のキャリアを重視する2判決 企業が得るべき教訓は」と題する記事が載せられ、2判決の内の1つである令和5年4月27日の東京高等裁判所の判決が紹介されていました。

 しかし、記事を読んでも具体的な裁判例の内容が分りづらいので、判決を元に、この点について確認したいと思います。

 事案は、某外資系クレジットカード会社の女性社員の処遇についてです。

 この女性社員は、BtoCの営業に関し、37名の部下がいるチームリーダー(営業管理職、部長)を任されていました。

出産を迎え、妊娠、出産、産前産後休業及び育児休業の取得をした後、復帰をしました。しかし、休業中、この女性社員が率いていたチームは社内の業務統合により廃止されていました。そして女性社員が復帰した後は、同じ職級(部長職)ではありましたが、部下のいない1人部署で、新規開拓業務を任されることになりました。

 これに対して、この女性は、チームが廃止されたこと、その後部下のいない1人部署に配属されたことは均等法第9条第3項の「不利益な取扱い」及び育介法第10条の「不利益な取扱い」に当たり、無効であると会社を訴えました。

 ご承知のとおり、均等法は、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業その他の妊娠または出産について、育介法は育休の申請や取得にあたって不利益な取扱いをしてはいけないと定めています。

 この裁判例は、「不利益な取扱い」かどうかの判断基準として、その労働者につき自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる、合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき当該措置を執ることなく、産前産後の休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適切配置の確保などの業務上の必要姓から支障があって、その業務上の必要姓の内容や程度及び労働者にとって有利または不利な影響の内容な程度に照らして、各法律に実質的に反しない特段の事情が存在する場合以外は、公序良俗違反となり無効となるという基準を示しました。

 その上で、事業上の都合からチームを廃止したことについては、その事実経過を検討し、問題なしとしましたが、一方で、1人部署にしていたことは、業務上の必然的な理由はなく、むしろ産休明けの本人の状態を考慮したとする上長の発言もあったこと、また職級は変わらなくても、部下のいない1人部署に配置することは「その業務の内容面において質が著しく低下し」たことなどを検討し、特段の事情は認められず、公序良俗違反で無効であるとしました。

 このように業務の必然性がなく、むしろ出産、育休等を理由として、本人にとって給与面のみならず業務内容としての質も著しく低下するものである場合には、違法と判断されました。経営者に悪意はなくても、このような客観的な事情があれば、人事権の行使も違法とされますので、上述した点を考慮して配置をすることが求められています。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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